アラサー女がアラサー女性のA子に恋をした話。
第四話を始めます。
A子に突然告白めいたことを言われ、困惑した私はA子を連れてショッピングモールの近所にある公園までドライブすることに。
自己嫌悪に陥る年上のアラサー
公園まで車を走らせ、駐車場に車を停めたものの。
どうすればいいのか分からない。
どうしよう、何を話せばいいのだろう、さっきのA子の言葉はどういう意味だったのだろう…。
などとドギマギしていると、突然助手席のA子が「くすっ」と吹き出した。
「ねえ、貴女からドライブに誘ったんでしょ?何か話そうよ笑」
いやいやいや、話そうと言われても、何を話せばいいのか…。
と、相変わらずドギマギしている私の心情を察してか、A子が話し出した。
「まあ、でもさっきの私の話し方は気になるよね。うん」
ズバリ核心に触れてきた。
そして続ける。
「私ね、貴女のことが恋愛対象として好きなんだと思うの」
「…え」
あまりにストレートな物言いに、私は拍子抜けするよりほかなかった。
「貴女と会えない間に、何をやってても手につかなくて。いま何やってるのかな、とか。一緒にここ行きたいな、でも勉強頑張ってるのかな、邪魔しちゃ悪いかな、なんていつも思っちゃってさ。ああ、私って貴女のこと本当に好きなんだなって思ったの」
さらにA子は、好きな人がいてそれが女性だということを自身の母親にも打ち明けたという。
「そしたらお母さん、大反対でさ。結婚もできないし子供も産めないのに、どうするの。養子?そんな子愛せるの?なんて言われちゃって」
私は何も言えなかった。
そして次の言葉で打ちひしがれた。
「何よりね、私、貴女が”そういう人”だと世間から見られるのが耐えられない」
”そういう人”という言葉を聞いた瞬間、ああ、これはもう無理な恋なんだと悟った。
A子のお母さんが大反対ということもあるが、A子自身も同性の私に恋をしていることに嫌悪感を抱いていたのかもしれない。
”そういう人”というニュアンスには、A子の様々な思いを感じさせた。
もう、A子と私にこれ以上の未来はない。
しかし、A子がこんなに真剣に思っていてくれたこと、そして自分の母親にも好きな人がいるが同性だということを打ち明けてくれていたこと、まったく知らなかった。
年上の私は、A子への恋心をただひた隠しにしようとしていただけなのに。
自分の気持ちに真摯に向き合ってくれていたA子に対し、私は逃げていただけだった。
こんなにも自分のことを情けなく思ったことはない。
私は何も言えないまま、公園から見える夕暮れ時の街並みをただ見つめているだけだった。
A子のあの眼差しは今も脳裏に焼き付いている
微妙な沈黙が続いた。
どうしようもなく情けない私は、どんな言葉を紡げばいいのかわからないままだった。
またも沈黙を破ったのはA子だった。
「でもね…」
その言葉は、涙声だった。
思わず私は助手席のA子をハッと見つめた。
「大好きなの…」
A子は涙をいっぱいに溜めた目で、まっすぐ私を見て言った。
「…私も…」
情けない年上アラサーの私は、こう伝えるのがやっとだった。
しかし、心の内側からはA子を抱きしめたい、キスしたいという欲望が溢れ出てきて止まらなかった。
自分の右手をA子の頬に差し出したその瞬間、A子の左手にやんわりと阻止された。
「…ごめんね…」
俯いたA子は私の右手を軽く握りながら言った。
「もう、会わないほうがいいね…」
「子どもが欲しい」と言われたら
A子は声を震わせながら続けた。
「私、自分の子どもを産むのが夢なんだ」
そりゃそうだよな、と妙に冷静な気持ちでその声を聞いている自分がいた。
「…だから…」
それ以上、A子も私も何も言わなかった。
私も、A子ももう30歳が見えている。
A子の「子どもが欲しい」という、女性としては至極当たり前な夢を、女の私がこれ以上邪魔する訳にはいかない。
「そろそろ行こうか」
私はそう言うのがやっとだった。
公園からA子の車が置いてある、ショッピングモールへと車を走らせた。
(最終話へつづく)